2019年に開催された「国立西洋美術館開館60周年記念 松方コレクション展」に行った時の模様です。
「なんだかわからんが、美術館てのは、こう…、たまらなく、わくわくするものじゃないか」(原田マハ「美しき愚か者たちのタブロー」より)
国立西洋美術館開館60周年記念 松方コレクション展
国立西洋美術館の収蔵品のベースとなった「松方コレクション」。
散逸や焼失、フランス政府による没収、数々の困難を経て今回、貴重な歴史資料とともに松方コレクションが一堂に会することになりました。
印象派を中心に、絵画、彫刻、デッサン、タペストリーなど、そのコレクションは多岐にわたります。
それらはすべて松方幸次郎氏が「日本の若者のために」美術館創設を夢見て集めたものでした。
「アルルの寝室」フィンセント・ファン・ゴッホ
今回の目玉はなんといってもゴッホの「アルルの寝室」でしょう。
ゴッホの絵は戦後、「敗戦国の財産」としてフランス政府に没収されてしまい、現在はオルセー美術館の所蔵となっています。
フランスが「ずるい」といえばそうかもしれませんが、日本軍も他の国の財産を奪っていたし、どちらが悪いとはいえません。戦争というものは理不尽なものです。
ただ今は文化で世界がつながれるのはいいことです。うん。
絵の貸し借りもけっこう盛んですしね。
松方コレクションを描いた原田マハさんの小説『美しき愚か者たちタブロー』の中で「アルルの寝室」をこう表現しています。
その部屋は(中略)まるで咲き誇るひまわりのごとく、黄色く燃え上がっているように見えた。
小説を読んでから展覧会を見たので、絵の描写や歴史的背景を確認しながら鑑賞することができました。
松方の旅とスパイ活動
松方コレクションについては印象派絵画のコレクションだとおもっていましたが、ブリューゲルやムンクなどドイツや北欧の絵画も買っていたのは初めて知りました。
実はこの買い付け旅には裏の目的(ドイツの潜水艦設計図を手に入れる)があったそうです。
残念ながらスパイ活動の詳細は記されていませんでしたが、戦争があった時代にはこんなスリリングな展開もあったんですね。
睡蓮・柳の反映
展覧会の最後を飾るのはモネの「睡蓮・柳の反映」。戦時中、疎開先にあったこの絵は欠損がひどく、絵の上半分が失われています。
国立西洋美術館では欠損部分をあえて展示しています。それは、松方コレクションが辿った運命そのものを表しているようです。また、絵の全体像は残されたモノクロ写真からデジタルでの復元が行われました。
この絵を見た時、『美しき愚か者たちのタブロー』の言葉がうかびました。
流転の松方コレクション、今では戦争ではなく文化交流によって見ることができる。それこそが松方さんの目指したところなのでしょう。
艦隊ではなく、美術館を。戦争ではなく、平和を。

