久しぶりにみた向田邦子新春シリーズは、やはり秘密の匂いがした。

原稿用紙と万年筆 ドラマ

昔、お正月になると放映していた向田邦子新春シリーズ。昭和初期の女系家族の生活と、その裏に隠れた情念を描いた愛憎渦巻くドラマです。

向田邦子新春シリーズとは

結構エロティックで不道徳な場面も多く、今思えば、よくこんなドロドロのドラマを正月に放映したもんだと思います。

出演:加藤治子, 出演:田中裕子, 出演:小林薫, 出演:萩原聖人, 出演:宮沢りえ, 出演:窪塚洋介, 出演:池脇千鶴, 監督:久世光彦, 原名:向田邦子, その他:久世光彦, Unknown:加藤治子
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そしてだいたい、女系家族の長女には不倫もしくは秘密の恋人がいて、それを母親が見抜いている。あるいは母親も過去不倫(それも血のつながらない家族と)の経験がある…。という設定が定番でした。

ドラマを見ていて子供心に「大人になるということは、秘密を抱えながら生きることなのだ」と思ったものです。

多くを語らず、匂わせる

向田邦子新春シリーズの定番は、田中裕子さんが家族の長女、小林薫さんがその恋人(不倫の場合が多い)、それを知る母親が加藤治子さんというのが定番でした。

あるドラマでは、長女が秘密の恋人と情事のあと(と思われる描写)家に帰ってくると母親が「あなた、そのセーター、捨てちゃいなさいよ。」と言うのです。私は情事を見抜いているわよ。男と女の匂いのする服を捨てなさい、と言っているわけです。怖い…

男どき女どき(おどきめどき)

先日見た「男どき女どき(おどきめどき)」。

小林薫さんと田中裕子さんの役柄は兄と妹。兄は社会主義の活動家で、妹の夫は兄を捕まえる任務をおびたスパイという設定。

お互い正月の膳を囲みながら、腹の探り合いをしている。それを義兄と義弟の普通の会話で匂わせてみせるのです。

今年はどんな年にしたいか。という質問に「お互い仕事がうまく行けばいい」と答えるのですが、義兄の仕事は社会主義活動を指し、義弟はその兄を捕らえることを指しています。

また、ある時の兄と妹の会話から、「もしかしたら、この兄妹はお互い兄妹以上の感情を持っているのでは…?」と見るものに感じさせます。

状況だけで具体的なことは描いていないのに、その秘密の匂わせ方にゾクゾクします。
1から10まで全てを描いてみせる最近のドラマと違い、向田邦子ドラマのような受け手が想像する余地があるんです。

そうした家族の秘密を、昭和初期の家庭の静かでなごやかなお正月の様子と対比させるように描き出す。

語り部である一番下の妹は、この時点では何も知らないんですね。無邪気な妹と、秘密を抱える姉との対比もすばらしい。

大人になるということは、秘密を抱えながら生きることなのだ

男どき女どき』の小説は、家族には言えない秘密を隠しながら、淡々と暮らす人たちの話が描かれます。

小さいころに向田ドラマを見た私は、大人とはこんなにも秘密を抱え、それを隠しながら生きているものなのか…と感じました。

大人になるということは、人に言えない秘密を抱えながら生きることなのだ。

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しかし、いざ大人になってみたものの、そんな秘密とは無縁に平々凡々と過ごしております。

向田ドラマに登場するような「大人の秘密」は実は選ばれた人間しか持ちえないものなのだ。と、気がつきました。そりゃそうか。

思えば向田作品は、私にとって大人になる通過儀礼だったのかもしれません。今ではあまりテレビで向田作品を見ることは少なくなりました。

しかし、こうやって彼女の本を手に取ると、人の秘密を垣間見たような、そんなドキドキと落ち着かない気持ちになります。

ナレーションは黒柳徹子さん。

昔はなぜ黒柳さんがナレーションをやっているのか不思議でした。でも、NHKの「トットてれび」で、ようやく最近知りました。黒柳さんと向田邦子さんが友人同士だったんですね。

トットてれびではミムラさんが向田邦子さんを演じています。雰囲気があります。

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